監査役・監査委員・監査等委員インタビュー

企業の成長を支える監査役・監査等委員の役割、現状の課題~女性×士業の社外役員経験を踏まえて~

話し手:播磨奈央子氏(ビジョナル株式会社 社外取締役 監査等委員)

成長局面にある企業を支えるうえで、監査役・監査等委員にはどのような立振舞いが必要でしょうか。

今回、プロフェッショナル人材に特化した会員制転職プラットフォーム「ビズリーチ」などを傘下に有し、2021年4月に東証マザーズに上場したビジョナル株式会社の社外取締役監査等委員である播磨氏に、監査役・監査等委員の役割等についてのご意見を伺いました。

あわせて、ダイバーシティ促進の要請を背景に、とりわけ上場企業や上場を目指すスタートアップ企業で高まっている女性×士業(弁護士、公認会計士等の専門資格保有者)の役員登用のニーズの現状に対するご意見を伺いました。


播磨奈央子氏

ビジョナル株式会社 社外取締役 監査等委員

2003年慶應義塾大学経済学部を卒業後、朝日監査法人(現・有限責任あずさ監査法人)へ入所。2007年公認会計士登録。2008年に個人会計事務所を開設後、ジャパン・ホテル・アンド・リゾート株式会社(現 ジャパン・ホテル・リート・アドバイザーズ株式会社)にて、アクイジション、ホテル経営会社管理統括、決算開示業務を経験。

その後、日本環境設計株式会社及び株式会社キノファーマ社外監査役、アツギ株式会社社外取締役を歴任。 2019年株式会社ビズリーチ社外監査役、2020年ビジョナル株式会社社外取締役監査等委員に就任、現在に至る。


  • 本年4月からビジョナル㈱は上場企業になりました。上場に携わってきた社外役員として、心持にどのような変化がありますか。

播磨:まずは上場までのプロセスの中で社内外の多くの関係者が協力し合い、上場という一つの結果を残せたことが純粋に嬉しく、また、このような貴重な時間の多くを、常勤社外役員として共有できたことは本当に光栄なことと感じています。

ただ、今後は上場企業としてこれまで以上に社会的責任が求められます。また、上場前の株主構成から変化が生じ、海外機関投資家や個人投資家も増えるため、少数株主を含めたすべての株主の利益を守るという立場に変化していることを意識するようにしています。

その中で、監査等委員としての役割、また、社外取締役としての責任も極めて大きくなります。大変ありがたいことに、私の場合、これまでにも上場企業を含めた他社で社外役員に就任させていただいている経緯があるため、その経験やノウハウをVisionalグループでも共有していきたいと思っています。

  • 監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ機関設計の変更により、社外監査役から監査等委員の社外取締役になられました。変化はありますか

播磨:理論上は取締役として議決権を有していること、一票を投じることの責任を持つことが挙げられます。その責任やあるべき立ち位置の重みをひしひしと感じており、監査等委員会設置会社へ移行後、これまで以上に社外役員同士の連携を心がけるようになりました。

とはいえ、監査等委員会設置会社への移行後1年強経過した現段階において実質的な違いはさほど無いと感じています。当社は円満な関係を構築していますが、取締役会と監査機関、または社内の業務執行役員と社外役員の間で厳しい対立がある会社の場合には機関設計の違いによって状況も異なるのかもしれません。

  • ビジョナルはどのような会社だと感じますか。

播磨:監査等委員としても、自由に発言ができていると思います。とてもやりやすい空気感はありますね。

機関設計による違いは当然ありますが、監査役であれ、監査等委員であれ、監査機関として実質的に機能している限り、さほど違いは無いのではないでしょうか。

そして、実質的に機能するか否かはその会社の監査機関に対する理解によると思います。とりわけ、経営トップはじめとした経営陣の理解が重要だと感じます。

ビジョナルの場合、グループ経営体制移行前の㈱ビズリーチに社外監査役として就任した時から、監査役であっても取締役会をはじめとした会議で自由に発言・議論しやすい空気が元々あり、それは今も変わっていません。経営陣の監査役に対する理解があってこそ、だと思っています。

当社の経営陣の場合は監査役業務に関する理解がありましたが、創業間もない上場を目指すスタートアップ企業においては、その理解が十分ではないこともあるかと思います。その意味では大変恵まれた環境にいると感じています。

監査役の実効性は、監査役に対する経営陣の理解が重要
機関設計自体が重要なのではない

  • 機関変更に伴い、内部監査部門や会計監査人との関係は変わりましたか。

播磨:監査等委員会設置会社に機関変更したタイミングから社外役員同士の連携とともに、内部監査・会計監査人監査・監査等委員監査の三様監査も強化しています。また、内部統制部署との密な連携も心がけるようになりました。

当社の場合、他社と比較しても、監査等委員と内部監査部門との連携が密であると思われます。例えば、内部監査室長とは、週次で意見交換や情報共有を行っています。内部監査計画を立案する際には、私も目を通すようにしています。

また、内部監査部門が社内のヒアリングを行う際には私もなるべく同席したり、逆に非常勤役員も参加する監査等委員会において年に数回内部監査室長にも出席いただき、参加者全員で情報の共有や意見交換を行っています。

監査等委員の役員として大枠の目線と、内部監査部門の社内の詳細な業務に関わる目線とで、異なる視点から様々な事項を共有し、時には課題に対して解決案を議論することで、結果として、より効果的かつ効率的な監査が可能になると考えています。

  • どのような経緯や背景で、その手法に落ち着いたのでしょうか。

播磨:元々、Visional(就任当時は㈱ビズリーチ)グループに社外役員として就任する前に、他の会社での常勤監査役の経験がありました。その会社にいたCFOの監査に対する考え方が今の私のやり方に影響を及ぼしているような気がします。

彼は、執行側が出来る限り情報をオープンに開示し、監査機関、会計監査人、内部監査等がその情報を自由に監査し、情報交換・改善することが特に重要、という理念を持っていました。監査に対しては現在のビジョナル経営陣も大変協力的かつオープンであり、執行側の取締役・執行役員をはじめとする多くの方たちと日々様々なやり取りを行っている結果、特に遠慮することなく執行側に対して情報を依頼したり、また必要な情報を入手するために自分自身でアクセスできる出来る環境となっています。

  • そうした手法に対する業務執行側の反応はいかがでしたか。

播磨:執行側は私の監査手法に対してとても協力的です。資料提供を依頼した場合にも、皆さんすぐに対応してくださいます。

他社の話を聞いてみると、必ずしも、当社のように監査機関に協力的であるということばかりではないそうですね。例えば、特定の会議に出てはいけない、情報は執行側が許諾したものしか閲覧できないというケースもあるそうです。他社と比べれば、当社の場合、大変やりやすい環境で監査できていると思います。

  • 播磨さんの評判として、コミュニケーション能力が高いという声も伺っています。

播磨:ビジョナルの経営トップやCFOをはじめ、社内の方たちとスムーズなコミュニケーションが出来ていることも事実だと思います。監査役であれ、監査等委員であれ、私自身が会社の企業価値のために考え行動しているということ、このことを執行側が理解してくれているのではないかと感じています。抽象的に聞こえるかもしれませんが、実際この点は大きいと思います。

理解といっても、コーポレートガバナンスや法制度の詳細を誰もが理解しているわけではありません。また上場を目指すスタートアップ企業において、例えば監査等委員(監査役)監査と内部監査の違いを知っている人は多くはないのではないでしょうか。

それでも、信頼感が醸成されているがため、社内の皆さんが協力的であるという面はあると思います。

制度の理解を求めるところから入るよりも、むしろ、抽象的な感覚論であっても、企業価値のために考え行動しているということ、これを理解してもらうことが結局は実効的な監査を実現する近道なのだと思っています。

企業価値に貢献していることが抽象的でも執行側に伝わっていることが重要

  • 執行側との信頼関係の醸成において、何か工夫したことはありますか。

播磨:まず、信頼関係を構築することは一朝一夕にはいきません。役員になったばかりの会社の場合、とりわけ社外役員にとっては信頼を築くことはより難しく、何より時間がかかるものです。また、社外の監査等委員の場合、その会社で長く勤めあげた生え抜きの監査等委員とは異なるコミュニケーションが不可欠であり、ひと手間ふた手間をかけることが必要になると考えています。

監査等委員として業務執行側と会話やコミュニケーションを重ねることも必要になります。最初は顔色を見ながら話す内容を変えることも必要かもしれません。

この信頼関係を醸成する難易度を決める要素として、その会社の空気があります。ビジョナルの場合、元々オープンな空気感が社内にありましたし、経営トップ自身も是々非々で議論する姿勢を明確に打ち出しており、価値あることをとことん正しくやろう、という考えをもっています。

そのため、監査等委員としてやりたいことを発案する際も、会社にとって、なぜ必要かをきちんと提示すれば、執行側から協力的に対応してもらえます。特に私は社外役員だからこそ、いい意味で空気を読まずに言えて、そのうえで意見を尊重してもらえていると感じています。

  • 経営陣からも尊重される意見のポイントはどのようなものでしょうか。

播磨:発言に価値が無くてはなりません。取締役会の下に、業務執行取締役、常勤監査等委員及び執行役員等が参加する執行側の会議があり、監査等委員の意見が聞かれることも少なくありません。そのような場合には、監査等委員の立場にとらわれずに、株主をはじめとした利害関係者を念頭に、異なる立場を意識した発言を心がけています。

  • ビジョナルは今後も様々な事業領域を手掛けていこう、という勢いがありますね。拡大する事業ポートフォリオに対して、どのように向き合っていますか

播磨:まず、当社の特徴として、新しい可能性を次々と生み出し、これからもっと成長していこうとする気概が会社全体に強くあります。監査等委員としては、取り扱う事業も人材業界にはとどまらないので、色々な法令や業界慣習等を理解する必要があります。

新しいテーマも多いですから、変化のスピードにキャッチアップするしかないと考えています。とはいえ、私の場合は監査法人で特定の業界に特化せず、様々な業界を同時並行で扱った経験や、不動産ファンドにおいて財務・経理だけではなく、フロント、ミドル、バックオフィス業務全般に携わった経験があります。私自身のキャリアが一つの業務にとどまらずに変化してきた結果、当社の事業ポートフォリオ拡大に対しても抵抗感なく、次はどんな分野に参入するのだろうと会社の成長にワクワクしながら楽しく向き合うことができています。

  • 企業によっては、評論家的な発言に終始する士業の社外役員への不満もありますが、会計士をバックグラウンドとする役員としてどのようにお考えでしょうか。

播磨:士業の社外役員は、「『これやっちゃダメ、これは危険』しか言わず、ブレーキにしかならない」という不満の声があるという話は耳にしています。

特に企業法務や会計監査を中心に長く身を置いた場合にはリスクに敏感になるため、リスクに対して積極的な会社の経営陣からは、そういった声があがる傾向があるのかもしれません。

あえて「攻め」と「守り」という捉え方で見れば、弁護士や公認会計士の場合、一義的な守備範囲として「守り」の面を期待されて役員となることが通例です。

ただ、私の場合は、一般的な会計監査を中心としたキャリアを有する公認会計士に比べて、不動産ファンドでのM&Aの経験や事業会社でのオペレーション業務経験を通じて、「攻め」の面での土地勘や、M&Aに対してのリスク感度は高い方なのかもしれません。これが監査等委員として期待されている役割にあたるかは分かりませんが、リスクを抑えながらも、結果として「攻め」の面では不必要に過度にブレーキを踏みこまないように思います。

士業であっても、会計監査人や顧問弁護士と立場が異なるので、「守り」一辺倒ではなく、「攻め」「守り」双方を守備範囲にできるバランス感覚も必要なのかもしれません。

「守り」一辺倒ではない、攻守双方のバランス感覚が士業の役員にも必要

  • ダイバーシティに対する時流の中、女性×士業の社外役員のニーズが高まっています。

播磨:実際、ダイバーシティ推進の潮流の中で、女性登用も進んでいることは感じます。また、そういった背景の中で女性×士業に社外役員として声がかかりやすいタイミングであるようにも思います。

数年前、女性の公認会計士の常勤監査役等が集まって勉強会を組成した際には、参加者の数はたった数名でしたが、直近の勉強会では参加者は数十名に膨らみました。

現在は、社内の女性役員登用までにある程度時間がかかることもあり、社外役員として外部の女性を登用している企業も多い状況ですしかし、今後、社内の女性人材で抜擢・育成が進めば、社外役員として女性を登用しなくとも社内人材を充てられるようになる時代もやってくると思っています。今後、社内外で女性登用が進めば、性別とは無関係に、これまで以上に役員としての能力やパフォーマンスをしっかりと見極められる時代がやってくると思います。そういったニーズに応えられるよう、日々研鑽を積む必要があることも認識しています。

会計士協会や弁護士会、監査役協会でも様々な取り組みがありますが、女性の有資格者や現在役員として就任している方々の間で、自主的な勉強会といった取締役や監査役として必要な知識・能力や素地を高めるための取組みも広がっています。このような取組みが広がり、継続されることで、より多くの女性役員が活躍されることになるでしょう。

  • 士業の社外役員へのニーズは、性別を問わず、上場を目指すスタートアップ企業で高いようです。

播磨:そうですね。

ただ、上場を目指すスタートアップ企業で監査役・監査等委員として働くことは、社内体制が一定程度構築されている上場企業で監査役・監査等委員として働くこととは実態として大きく異なります。

公認会計士がスタートアップ企業で監査役になる場合、社内の人手不足を理由に、結果として財務・経理関連業務の担い手となったり、内部統制体制構築や社内規程・開示書類作成等を実質的に担当しているケースも少なくないようです。

そうした業務が、制度が監査役に対して期待するものとは異なるものであっても、業務としてこなせてしまうがゆえに、監査役に本来求められる役割とは異なることを担わされているケースもあるようですね。

この点、ビジョナルの場合、社内弁護士・会計士等の専門人材を含めた優秀な方が多くいるので、このようなことはなく、私も㈱ビズリーチに監査役として就任した当初から監査役の仕事に専念できました。

しかし、特に人材不足の会社において、監査役が特定の実務を担わされ、本質的な監査が行えない結果、監査役の本来の役割である「取締役の業務執行の監督機能」が果たせないケースが見られる点は問題だと思います。今後スタートアップ企業においても本来の監査役の役割の理解がより進み、そういった事例が減少することを期待したいです。

  • 今後の展望をお聞かせください。

播磨:新しい可能性を次々と生み出し、社会にインパクトを与え続けるVisionalグループに携わることは非常に面白く、エキサイティングです。とはいえ、複数のプロセスを経て社内体制を構築し、ようやく上場したばかりのスタートアップ企業であることも事実です。今後もVisionalグループが安定した成長を遂げることができるよう、何かしらの形で見守りたいと思っています。

  • 本日はありがとうございました。

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