~監査環境の変化、監査役員会の実効性評価の活用など~

コーポレートガバナンス・コードの適用以降の数年間で上場企業におけるガバナンス体制の整備が格段に進みました。一方、グローバル化や多角化に加えて近時の経営環境の変化に伴い、企業が直面するリスクは複雑化・高度化しています。取締役会とともにコーポレートガバナンスの一翼を担う監査役員(監査役、監査等委員、監査委員の総称)に課せられた期待や要請も、これまで以上に一層高まっています。

今回、グローバルプロフェッショナルファームで経営陣を務め、複数の上場企業で監査役員や監査役協会副会長を歴任した、伊東敏氏に、これまでの経験を踏まえ、監査役員が如何に企業価値の創造・棄損抑止に貢献していくべきか、実効性評価の活用等について、お考えを伺いました。

話し手 伊東 敏 氏 

日本監査役協会元副会長 公認会計士 日清製粉グループ本社 取締役監査等委員
アーサーアンダーセン パートナー、朝日監査法人代表社員、公認会計士第三次試験論文担当委員、中央大学会計専門大学院特任教授、日本監査役協会副会長を歴任。花王、IMF、日本電気(NEC)、 三井住友ファイナンシャルグループ、三井住友銀行、日清製粉グループ本社の社外監査役等を歴任。

この10年間を振り返ると、数々の日本企業の不正・不祥事、ガバナンスの制度改正等が目白押しでした。そのプロセスの中で、監査役員に対する期待・要請がどのように変わってきているように感じますか。

伊東:監査役員の視点で振り返ると、まず、監査役員制度の改革が否応なしに進んだように感じます。全体としてみれば良い方向に進んでいるように思います。しかし、特に、監査役会制度を取り上げるとすれば、あたかも三種類の監査役員形態の中で劣後する形態として見られ、内外からの非難に晒され、制度としては、まさに風前の灯火のような状態に見えました。

海外投資家からは、監査役は取締役会の議決権を持たず、ガバナンス機能を果たせる制度ではない、という批判も不信感も未だに根強くあります。監査役会制度に構造的な問題があることは否めません。私自身も、このような海外投資家の指摘は的を射ていると認めざるを得ません。

また、海外投資家が期待する機能・役割を妨げている実務面の制約もあります。例えば、過去の人事制度の延長線として、経営トップが監査役の実質的な人選を行う実務は未だに多く見られます。人心ですから、自分を選んでくれた経営トップに対して感謝もあるでしょう。これが監査役会の透明性や独立性の阻害要因となりうるという理屈は否定しきれません。実際、そのようなケースも見られます。

その結果、法的には監査役はきわめて強力な権限を持つものの、あいにく宝の持ち腐れになっており、それが監査役に対する評価や心象を損ねている面はあるのだと思います。 しかし、上場企業を見ると、監査等委員会や監査委員会を採る企業は未だにマイノリティーです。むしろ、海外投資家や政策担当者から評価されていない監査役会がマジョリティーです。他の形態と比べて、監査役会が適切だから、という個々の会社の考えや狙いがあればこそ、このような構造になっていると思います。

監査役会制度の運用面において、どのような工夫の仕方がありうるでしょうか。

伊東:先ほどの監査役候補者の人選についていえば、経営トップの専権にせず、社外監査役が直接的に人選のプロセスに関与することが考えられます。例えば、選任委員会の設置、という手当ても有効と考えます。たしかに負担こそありますが、利益が相反する経営トップやその周辺だけで人選が決められてしまう状況より、透明性や公正性を担保できます。

もちろん、社外監査役の人数を増やすことも選択肢です。これは社外監査役としてお眼鏡に叶う人材がいる限り、検討してもいいでしょう。

さらに、可能であれば、監査役会の議長役を社外監査役が務める構造も有効な選択肢になります。社内監査役が議長を務めるとなると、どうしても、形式の面で監査役会の客観性や公正性で疑義につながってしまうことは否めません。 社内の情報やネットワークに円滑にアクセスできる社内スタッフ等が社外監査役をサポートできる体制が担保されていることを前提として、社外監査役を議長にすることも検討してもいいのではないでしょうか。

日本特有の監査役はじめ、監査役員は強力な権能と独立性を付与されています。一方、制度に対する理解が浸透していない等、必ずしも、監査役員制度を有効に活用されていないようにも感じます。原因は何とお考えでしょうか。

伊東:監査役員制度に対する理解・認識の不足は否めません。確かに制度そのものが複雑で、何かしら監査役員と関わる業務経験でもないと、どのような機能や役割を監査役員が担っているのか、いまいちピンとこないでしょう。例えば、営業一筋で監査のことなんか何も分からない人物がいたとして、監査役員の制度について、ちょっとやそっと説明された程度で十分な理解を求めることもいささか酷です。

先日、とあるセミナーの際、海外からの参加者から、日本人の監査役員の平均報酬は450万円程度にもかかわらず、責任と要請ばかりが重すぎる、というコメントがありました。実際、企業によっては、取締役と監査役員の報酬に大きな乖離があります。

監査役員が担う業務の範囲やボリュームを考えると、むしろ監査役員の報酬の方が高くてもいいものですが、そうなってはいません。これは監査役員がそもそもどのような機能や役割を担っているかを理解できていないことが要因の一つです。

一方、理解している会社はちゃんと理解しています。経営トップが監査役員の機能や役割を理解している企業の場合、先ほどのような報酬面の差はありません。

また、この数年間で、監査役に限らず監査役員に対する理解や認識が多少なりとも前進したことは事実です。徐々にというペースではあるものの、着実に理解状況は改善はしています。 とはいえ、経営陣の監査役員に関する理解促進と意識改革を進めることは引き続き必要です。これは各社の監査役員自身が使命感と誇りを抱いて、粘り強く継続的に社内外で発信するしかありません。

監査機能を高めるうえで、三様監査の重要性が盛んに議論されています。
実効的な三様監査に必要なものは何でしょうか。

伊東:まず、三様監査を主宰する役割は親会社の監査役員会が担うべきです。現状、監査役員会に能動性や問題意識が欠けている会社も見られます。機関相互の独立性を加味したうえで、連携の在り方を探り、方向性を示すことが必要です。効果的な監査役員会によるイニシアティブと働きかけがあってこそ、初めて三様監査が成り立ちます。

また、いわゆるデュアル レポーティングの実効性が重要です。これは機関設計を問わず共通です。ただし、監査委員会や監査等委員会は取締役会に対する報告を得るため、特段意識しなくとも、自然とデュアルレポーティングになりますが、監査役会設置会社の場合は特に意識しないといけません。制度があっても、実態が機能しないこともあります。

また、経営者に対する報告内容と同じ情報が監査役員会に対しても報告されなければなりません。過去の事例を見ても、異なる報告内容を使い分ける状態を放置すると将来的な不正・不祥事へと発展しかねません。

そして、何より大きな問題として、内部監査領域の人材が十分ではない点に危機感を感じています。監査役協会や内部監査協会のデータを見ても、内部監査を担う人材の少なさは顕著です。

近時の不正・不祥事の事案を見ても内部監査機能の充実は不可欠です。しかし、上場する時を除いて、内部監査部門が単なるコストセンターとして軽視されている空気感も感じます。

内部監査機能の設置については、法令や東京証券取引所の規則による義務付けが望ましいと考えています。特に日本企業のガバナンスの状況を見ても、何らかの施策で手当てする必要性を強く感じます。

実効的な三様監査のため、監査役員と内部監査の連携はどうあるべきでしょうか。

伊東:まず、監査役員の基本的な姿勢として、独立性を前提に、内部監査に任せるべきところは任せるべきです。監査役員からすれば、経験や知識もあり、自分でやったほうが簡単で早いため、ついつい自分の手でやろうとしたくなりがちです。

しかし、それでは監査役員が内部監査とイコールになってしまい、三様監査にあるべき機能分担ではありません。監査役員は、あくまで仕組みづくりと監視・監督を担っている点を意識すべきです。監査役員が役員である趣旨を忘れてはいけません。 また、内部監査部門に対する人事や報酬に関する権限が監査役員会に付与されるべきです。実態として、多くの日本企業はそのような構造になっていません。これは今後に期待するしかないでしょう。

内部監査部門に対する期待は何でしょうか。

伊東:内部監査部門自身の独立意識が重要です。これは、構造的な問題もあり、口で言うほど簡単なものでもありません。内部監査部門に所属しているといえども、性質として従業員という立場ですから、自分の人事評価や出世を考えれば、上司を守るように慮ってしまいます。例えば、上司を守るため、監査役員会に対する報告を怠ることも起こりえます。

サラリーマンであることと独立性は対極にあります。だからこそ、内部監査部門の独立性を意識する必要があります。この点については、経営陣自身が理解していることも重要です。

とはいえ、人心に依拠するのみでは独立性を担保するには限界があります。内部監査部門の独立性を担保するため、何らかの法令や規則が必要です。

日本企業における内部監査部門の位置づけはグローバル企業と比べて低いように感じます。

伊東:その通りです。また、内部監査部門の位置づけを見直すことも必要です。例えば、多くの日本企業の内部監査部門は比較的年齢層が高い人材がアサインされる傾向にあります。社内のキャリアパスの終点となっているケースもあります。これでは内部監査部門で培った経験や知見を経営に活かすこともできません。これは会社にとっても勿体ない話です。

経営陣が内部監査部門をどの程度理解・重視しているかは会社ごとに大きく異なります。グローバル企業の場合、経営陣自身が、経営において内部監査部門が果たす機能や役割が如何に重要であるかを理解しています。自ずと、内部監査部門の位置づけも変わります。

グローバル企業は内部監査部門を意識的に人材の能力開発に活用しており、経営幹部になるためのステップとして位置づけています。なぜなら、全社を経営者の観点から横断的に見る視野や分析力、リスクに対する読み、広範な管理スキル、これらをすべからく経験できるという、きわめてベネフィットが大きい部門だからです。

内部監査部門で求められる能力は経営幹部になってからも求められます。仮に、内部監査部門でパフォーマンスが低いのであれば、それは経営幹部としての適性や素地に問題があるとも言えます。

最近、監査役員会の実効性について議論する企業が増えてきました。

伊東:それは監査役員自身も、その実効性を熟考せざるを得ない経営環境や時代になったからではないでしょうか。実際、グローバルリスクの顕在化や新型コロナウイルス対応など経営環境の変化は劇的です。

これに伴い、監査の難易度や複雑性も一気に高まり、監査役員の責任も比例して大きくなっています。 また、最近は監査役員が絡む不正・不祥事もあって、当事者が責任追及される場面を目にすることで、緊張感や不安を覚える監査役員は少なくないのではないでしょうか。

監査役員会に対する実効性評価の意義・有効性を早くから発信されてこられました。その背景や問題意識を教えてください。

伊東:日本のコーポレートガバナンス・コードにおいて、実効性評価は取締役会のみを対象にするような表現に文理上なっています。

私はコーポレートガバナンス・コードの議論があった当時は監査役員の立場だったため、監査役員会が実効性評価として明記されていないことに対して、違和感を持っていました。

海外の事例や国際機関によるガイドラインの要請を見ても、その趣旨としては、取締役会にとどまらず、ガバナンスに関連する機関はすべからく実効性評価の対象とするものです。当然に指名委員会や報酬委員会は対象になりますし、同様に監査役員会も当然含まれるものです。

コーポレートガバナンス全体の実効性を見るうえで、監査役員会の実効性が担保されていることは当然備えるべき要件です。また、取締役会本体は実効的に機能しているように見えても、関連委員会が実効性を欠いていることも実際上少なくありません。これではコーポレートガバナンスの全体最適は不可能です。

同時に、自発的な取り組みとして、私の監査役員や監査役協会での経験を踏まえて、監査役員会の実効性評価として、どのような方法、内容、チェックポイントがよいか試行錯誤しました。これを様々な場で発信したところ、その意義に賛同してか、任意で監査役員会の実効性評価を行う会社が現れるようになりました。

アサヒグループホールディングス、また、ベルシステム24は監査役員会の実効性評価を実施し、結果概要を開示しています。

伊東:先進事例の存在は重要であり、後に続く企業にとっては大いに参考になるでしょう。私もセミナーや講演はじめ、様々な場で監査役員会の実効性評価について話をすると、関心を持つ企業が増えていることを感じます。話を終えた後に、具体的な質問を受けることやアドバイスを求められることもありました。

着実に監査役員会の実効性評価に取り組む企業の裾野は広がっているように感じます。

監査役員会実効性評価において、評価項目の設計が重要になります。評価項目はどのように設計すべきでしょうか。

伊東:画一的な評価項目はありません。自社監査役員会にとって、実効性を見るべき対象領域を見定め、評価項目にする方法が良いでしょう。

実効性評価の対象分野を熟考した際には、監査役員会の構成から始まり、リスクマネジメント体制に対する監視、三様監査の連携体制、さらにESGやSDGsへの対応まで、監査役員会としての実効性が問われる対象分野は多岐に渡りました。 ただし、全ての会社において、これら対象分野について事細かに評価する必要性はありません。当てはまらないものもあるでしょう。自社監査役員会に求められる要素を対象分野ごとの優先度を鑑みて、必要に応じて専門家の意見も入れつつ、評価項目としてまとめていく方法が良いでしょう。

実効性の分析と評価の対象分野(例)
1.    監査役員会の構成と運営
2.    企業集団監査役員監査体制
3.    コーポレートガバナンス・コードへの対応
4.    会計監査人の選任・再任・不再任・解任の判断手続
5.    取締役・取締役会対応
6.    リスクマネジメント体制監視
7.    内部統制構築の監視・検証
8.    リーガル・コンプライアンス体制の監視・検証
9.    内部監査の監視及び監査役員監査との連携
10.  外部監査の監視及び監査役員監査との連携
11.  三様監査連携体制
12.  財務報告・情報開示の監視・検証
13.  重要な法令違反、不適切な会計処理等の不祥事対応
14.  ITガバナンス及び情報システム体制
15.  ESG、SDGsへの対応
16.  監査役員監査のドキュメンテーション など

評価」という言葉は監査において重い意味を持ちます。実効性評価を実施するにあたり、この「評価」という言葉がボトルネックになっているようにも感じます。

伊東:評価という日本語がボトルネックになっていることは否めません。監査役員会は失敗が許される余地がないため、監査役員会が評価されること自体も避けたいし、評価の結果が悪いことを不安に思うケースもあるでしょう。もとより、監査役員は仕事柄か、どうしても慎重で保守的な性格の人物が多い点も背景にあるように感じます。

私は、評価を「テスト」と捉えるのではなく、継続的な改善と捉えるべき、と伝えたいです。万事において課題無し、ということを期待すべきではありません。

仮に穴が見つかったとしても、それを継続的に解消する努力をすること、それを長い時間をかけて継続していくことこそに意義があります。

「うまく活用してやろう」という気概を持って、もっと、ポジティブかつクリエイティブな視点から、実効性評価を見つめ直しても良いのではないでしょうか。

それこそ、継続的改善を行うきっかけ、ないしツールとして、実効性評価を如何に利用できるか、という観点で捉えるべきです。

遵守しなくてはならないコンプライアンスや義務、と捉えるべきではありません。 言葉で言えば、役員報酬にかかるCD&A(報酬決定に関する議論・分析:Compensation Discussion and Analysis)のように、「議論・分析」という表現の方がニュアンスとして適しているのかもしれません。

監査役会設置会社の場合、監査役の「独任制」を理由に、組織としての監査役会は評価対象としてなじまない、という声も耳にします。

伊東:監査役の「独任制」は、効果的な監査を実現するため、あくまで追加的な権限を付与するものです。監査役会としての全体最適を追求する意義を否定する性質ではありませんし、翻って、実効性評価の必要性を否定するものではありません。

監査役員会実効性評価の開示方法に関するお問い合わせをよく受けます。

伊東:監査役員会の実効性評価は、監査役員会としての考え方や取り組み状況を投資家やステークホルダーに広く伝えるいい機会です。現在は開示している事例も多くありませんから、自社監査役員会の取組みを効果的に伝えるいいタイミングとも言えます。

そもそも、日本企業は求められていることだけを開示する傾向が顕著です。例えば、有価証券報告書のリスク情報を見ても、どの会社も似たような内容が並んでおり、読んでみても全く意味がない代物になってしまっています。まず、独自性を伝える開示であることが必要です。

コーポレートガバナンスに限らず、欧米企業は開示によるアピールが上手ですが、日本企業は効果的にアピールをできておらず、損をしているように感じます。

伊東:日本企業は開示に対する姿勢として、悪い意味で真面目すぎるように感じます。ESGの環境に関する開示を欧米企業は盛んに行っています。外部に対する見せ方が、ある意味で非常に上手です。

大したことでなくとも、あたかも大きな成果や成功があったかのように見せる内容になっています。しかし、実際の根拠まで遡って確認すると、実はたいしたものでなくとも、開示の内容はそうではないのです。

例えば、環境に関する取組みで言えば、日本企業は一般的には欧米に比べて遅れをとっているという論調が根強いですが、実態はそうではありません。純粋にアピールが下手ともいえるのです。

虚栄を張れという意味ではありませんが、如何に効果的に投資家はじめステークホルダーに伝えていくのか、この点について、欧米企業を参考に考えるべきではないでしょうか。

しっかりと開示を通じて、ステークホルダーに伝えていかなくてはならい、という点はコーポレートガバナンスに関しても同様です。この点は日本企業が取り組むべき余地が大いにあり、今後に期待しています。

今後、コーポレートガバナンスの更なる発展に向けた制度面の改善にも期待したいです。

伊東:コーポレートガバナンス・コード次回改訂の内容として、取締役会のみならず、指名(諮問)委員会、報酬(諮問)委員会、監査役員会の実効性についても、それぞれ個別に評価することが明示的に規定されることを期待しています。

これにより、コーポレートガバナンス全体の実効性の継続的な改善につながる取り組みを後押しすることになるはずです。

本日はありがとうございました。

インタビュー概要

話し手伊東敏 氏
聞き手合同会社 御園総合アドバイザリー、弁護士法人 御園総合法律事務所
 武田 智行 (t-takeda@misonosogo-advisory.jp)
 河合 巧 (t-kawai@misonosogo-advisory.jp)
取材日2020年6月
取材場所BIRTH LAB(麻布十番髙木ビル1階)にて  
取材協力BIRTH、株式会社 髙木ビル
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