インドからの海外送金って大変?

「個人でインドから海外送金するのって大変なんでしょ?」そんな質問をよく受けます。インドで稼いだお金はどうやらそう簡単にはインド国外に持ち出せないらしい・・・、そんなイメージを持たれている方が多いようです。ただ、実際のところはそれほど大変ではありません。私も個人的によく海外送金をしますが、自宅にいながらオンラインでポチポチっとやるだけで簡単に日本の口座に送金できていますし、日本に一時帰国した際にはインド地場銀行が発行した国際デビットカードを使えばセブン銀行などを通じてコンビニでお金をおろすことも可能です。

最低限知っておくべき現状のルール

 とは言っても、好き勝手自由に海外送金ができるかと言うと“No“です。原則、私たちがインドで得ている税引き後の給与(net salary after deduction of tax)を上限として送金が可能というルールになっていて、それを超えて海外送金を実施する場合には承認取引銀行(AD Bank)を通じて確認をする必要があり、場合によってはインド準備銀行(RBI)からの事前承認を得る必要があります。ただ、現実的にはインドでもらっている給与以上に海外送金をしなければならないケースはほぼ発生しないので、一般的にはこのルールに則っていれば特に支障はありません。

また、インド準備銀行はインド居住者個人に対して送金自由化スキーム(Liberalised Remittance Scheme : LRS)を提供していて、以下のような取引および一部の資本勘定取引(外貨建て口座や海外不動産投資、海外への貸付など)については事前承認なしで年間250,000米ドル(約2,650万円)まで海外送金が可能となっています。つまり、インドルピーで高額な給与を得ている居住者であっても、税引き後給与および当該スキームの範囲内であれば自由に海外送金が可能という状況です。なお、当該スキームはあくまで「すべてのインド居住者(all resident individuals)」にのみ適用可能なため、会社やパートナーシップ、信託などの法人格においては利用できません。

  1. プライベートの海外旅行資金(ネパールおよびブータンを除く)
  2. ギフトや寄付金
  3. 雇用のための海外渡航資金
  4. 海外移住資金
  5. 海外在住の家族への生活資金
  6. 海外出張やカンファレンス参加、研修等にともなう出張旅費
  7. 海外での治療や健康診断にかかる費用
  8. 留学資金
  9. その他

2020年10月1日から適用される海外送金におけるTCS課税

“TCS”とはTax Collected at Sourceを略した源泉所得税で、物品の販売側(=金銭の受領側)が顧客から請求代金を受領する際に、一定の割合を源泉所得税として追加徴収(collect)して納税を行う直接税の一種です。納税方法は間接税のGST(Goods and Service Tax:物品・サービス税) と同様に、金銭の受領側が支払側から徴収し、税務当局へ申告・納税が行われます。 従来までは一定の物品を販売する事業者についてのみこのTCSが課税されていたのですが、2020年10月1日からインド居住者個人が海外送金をする際にもTCSが課税されることとなりました。 物品販売に対するTCS課税論点については前回の記事をご覧ください。

TCSって何?インド特有の税制TCSの概要

※仕組みをわかりやすくご説明するために便宜上TCSの計算方法を簡略化しており、また、銀行手数料や為替等については考慮していません。つまり、実際には海外送金にかかるTCSについては70万ルピーを超えた部分に対してのみ課税されます。

今回の改正については1961年所得税法第206条1G(a)項に規定されており、具体的には、上述の送金自由化スキーム(LRS)を通じて海外送金を実行するインド居住者は(※特殊な海外送金でない限りは通常、このLRSスキームを通じた海外送金に該当します)、取引銀行当たり年間70万インドルピーを超える海外送金に対しては5%(当該居住者がPANを持っていない場合は10%)のTCSが課税される旨が明記されています。

最終的な個人所得税の負担は変わらない?

なお、このTCSは上述のとおり源泉所得税として取引銀行によって徴収・納税がされます。つまり、課税されるTCSは個人所得税の一時的な前払税金としての性質を持ち、年度末の確定申告の際に所得税額控除として年間申告納税額に対して相殺・精算されることとなるため、当該TCS課税により実質的な個人の税金負担が増えるものではありません。

インドで定期預金を組んでいる方はよくご存知と思いますが、定期預金の満期時に支払われる受取利息に対しては金融機関により源泉所得税TDSが控除(deduct)され、その控除証明としてForm 16Aが金融機関から発行されます。そして、今回のTCSについても同様に、インド居住者が海外送金を実行する時に源泉所得税TCSが追加徴収(collect)され、その追加徴収証明としてForm 27Dが発行されます。当該Form 16AおよびForm 27Dのデータが最終的にForm 26AS(日本の源泉徴収票のような源泉税の年間ステートメント)に反映され、当該データに基づき、個人の確定申告を実施することで年間申告納税額との相殺・精算をすることができる、という仕組みになっています。

以上

執筆者紹介:田中啓介 / Keisuke Tanaka

Global Japan AAP Consulting Private Limited

代表取締役社長/米国公認会計士

南インドのチェンナイにてGlobal Japan AAP Consulting Private Limitedを創業、スリランカのコロンボにGlobal Japan Lanka Consulting (Pvt) Ltdを設立し、インドおよびスリランカに進出する日系企業の市場調査や法人設立支援、会計税務、法務、労務、カンパニーセクレタリー等の各種コンプライアンスのアウトソーシング支援やアドバイスを中心として、これまで100社超の日系企業の南アジア進出を支援。2012年からチェンナイに移住。

【Global Japan Consultingインドおよびスリランカ法人の概要】

会社名
Global Japan AAP Consulting Private Limited(インド法人)
Global Japan Lank Consulting (Pvt) Ltd.(スリランカ法人)
代表Founder & Managing Director
代表取締役社長 田中 啓介(米国公認会計士)
事業概要南インドのチェンナイに本社を構える国際会計事務所。 バンガロールおよびハイデラバードにも拠点を持ち、インドに進出する日系企業の市場調査や法人設立支援、会計税務、法務、労務、カンパニーセクレタリー等の各種コンプライアンスのアウトソーシング支援やアドバイスを提供。
所在地インド/スリランカ(チェンナイ本社)
その他拠点バンガロール、ハイデラバード、コロンボ
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