「透明性のある課税 −誠実な納税者に対する敬意」(Transparent Taxation – “Honouring the Honest”)

2020年8月13日に、モディ首相は国民に向けた演説を行い、直接税に関する納税申告手続きの簡素化を目指した包括的な行政改革案を発表しました。汚職撲滅と納税者保護を念頭に置いたこの改革は、税務申告の手続き簡素化という側面だけでなく、インド税務当局の組織改革といった側面もあるようです。

「透明性のある課税 −誠実な納税者に対する敬意−(Transparent Taxation – “Honouring the Honest”)」と題された今回の演説のポイントは、1. 非対面型の税務調査および申立(Faceless assessments / Faceless appeals)、2. 納税者憲章(Taxpayers’ Charter)の2つに大きく分けられます。について述べられています。

1. 非対面型の税務調査および申立(Faceless assessments / Faceless appeals)

インドの直接税を管轄するCBDT(Central Board of Direct Taxes: 直接税中央委員会)は、近年、法人税率の引き下げや配当分配税の廃止、紛争解決スキーム(Vivad se Vishwas Act、2020)の導入をはじめとした、主要な税制改革を実施しています。今回の演説では、納税者と税務官が個人的又は物理的に対面して調査又は申立をしないように簡素化するスキームが発表されています。

非対面型の税務調査および申立(Faceless assessments / Faceless appeals)と称されたこのスキームでは、2019年の連邦予算案で提唱された、e-assessmentのスキームをベースに、より円滑な申告納税手続きができるように改善されたものです。この非対面型のスキームにより、納税者は税務申告の調査通知を受け取る際に、管轄区域の税務官や所得税部門に出向く必要はなく、Webポータルサイト上で全て対応が可能となります。

また、従来の所得税に対する税務調査の方法も一新されており、税務当局の組織改革と申告プロセスの開示も行われております。税務調査はすべて中央政府が管轄する国家電子税務調査センター(NeAC: National e-Assessment Centre)が一元管理することとなり、AIを使用したランダム選択により税務調査案件がピックアップされます。

2. 納税者憲章(Taxpayers’ Charter)

納税者憲章は、税務担当官の責務の大枠を規定した14カ条と納税者の義務を明記した6カ条から構成されています。この憲章は、今年に改正されたインド1961年所得税法(Income tax Act 1961)に挿入されたSection 119AにおいてCBDT(Central Board of Direct Taxes: 直接税中央委員会)は納税者憲章を採択・宣言し、具体的な指示、通達、ガイドライン等を発令することとされており今回の納税者憲章はこれに基づいて発表されたものということになります。

又、この憲章は、納税者と税務当局間の信頼関係構築とハラスメント行為の減少を目指して策定されており、特に納税者のプライバシーの権利が強調されていることから、税務当局のアグレッシブな課税態度が改められることが期待されます。

「『税務担当官の責務』に関する14カ条」

  1. 税務当局は、納税者との全ての手続きにおいて、迅速かつ丁寧で専門的な支援を提供する
  2. 税務当局は、特別な事由がない限り、全ての納税者を正直であると見なして扱う
  3. 税務当局は、納税者に公正で公平な申立と査定の仕組みを提供する
  4. 税務当局は、納税者に法令遵守義務を果たすための正確な情報を提供する
  5. 税務当局は、全ての税務調査において法律に規定された期間内に結論を下す
  6. 税務当局は、法律に準じた課税額のみを追徴する
  7. 税務当局は、法律で定められたプロセスに従い、質問、調査、または課税権行使において必要以上に立ち入らない
  8. 税務当局は、法律で許可されない限り、納税者から提供された情報を開示しない
  9. 税務当局は、自らの課税権行使の内容に説明責任を持つ
  10. 税務当局は、すべての納税者が代理人を選任できることを認める
  11. 税務当局は、納税者による不服申し立てとその迅速な処分を下す仕組みを提供する
  12. 税務当局は、公正かつ公平なシステムを提供し、期限を設ける形で税務課題を解決する
  13. 税務当局は、定期的にサービス提供の基準を公開する
  14. 税務当局は、課税権行使においては納税者側のコンプライアンス対応にかかるコストを十分に考慮に入れる

「『納税者への期待』に関する6カ条」

  1. 納税者は、すべての情報を正直に開示し、法令遵守義務を果たすことが期待される
  2. 納税者は、租税法に基づく法令遵守義務を認識し、必要に応じて当局に支援を求めることが期待される
  3. 納税者は、法律で要求される正確な記録を保管することが期待される
  4. 納税者は、その代理人が提供した情報と提出した資料について把握することが期待される
  5. 納税者は、租税法に従い適時に調査に応じる
  6. 納税者は、法律に準じた納税額を適時に支払う

3. インドが示した透明性のある課税とその行方は?

今回発表された改革は、「税務調査」において課税権を持つインド税務当局と、正確かつ適時な「情報開示」を前提とした納税者との間における性善説に基づいた信頼関係の構築が期待されているように思います。「税務担当官の責務」14カ条と「納税者への期待」6カ条の内容は至極真っ当でありますが、膨大な数の税務訴訟を抱えるインドにおいて、この納税者憲章が現場の実務レベルにおいてどこまで浸透していくのか、またさらに、間接税への影響は期待できるのか、しっかりと見極めていく必要があろうかと感じます。

ちなみに、今年度より納税者が確定申告時に開示すべき情報範囲はさらに拡大しており、Form26AS(源泉徴収表のようなフォーム)においては、従来の情報に加えて、個人のAadhaar Number(アーダール番号)やメールアドレス、携帯番号、生年月日などの基本情報が追加され、さらに、不動産や株式などの個人資産にかかる情報もフォーム上で開示されることとなる旨が発表されています。納税者にとっては従来よりもより多くの情報開示が求められてきている状況において、インド税務当局がこれらの情報を適切に取り扱い、性善説に基づく正当な評価をしてくれることを強く期待したいと思います。

執筆者紹介:田中啓介 / Keisuke Tanaka

Global Japan AAP Consulting Private Limited

代表取締役社長/米国公認会計士

南インドのチェンナイにてGlobal Japan AAP Consulting Private Limitedを創業、スリランカのコロンボにGlobal Japan Lanka Consulting (Pvt) Ltdを設立し、インドおよびスリランカに進出する日系企業の市場調査や法人設立支援、会計税務、法務、労務、カンパニーセクレタリー等の各種コンプライアンスのアウトソーシング支援やアドバイスを中心として、これまで100社超の日系企業の南アジア進出を支援。2012年からチェンナイに移住。

【Global Japan Consultingインドおよびスリランカ法人の概要】

会社名
Global Japan AAP Consulting Private Limited(インド法人)
Global Japan Lank Consulting (Pvt) Ltd.(スリランカ法人)
代表Founder & Managing Director
代表取締役社長 田中 啓介(米国公認会計士)
事業概要南インドのチェンナイに本社を構える国際会計事務所。 バンガロールおよびハイデラバードにも拠点を持ち、インドに進出する日系企業の市場調査や法人設立支援、会計税務、法務、労務、カンパニーセクレタリー等の各種コンプライアンスのアウトソーシング支援やアドバイスを提供。
所在地インド/スリランカ(チェンナイ本社)
その他拠点バンガロール、ハイデラバード、コロンボ
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