インドでは、納税者が特定の取引に関する税務上の取り扱いについて確実性を期すために、税務当局へ事前に照会できる仕組みがあり、その手続きを司る機関のことをAuthority for Advance Ruling(事前審査機関、以下「AAR」という)と呼びます。AARを通じて下された決定事項は、申請した企業に対して税務上の取り扱いの確実性を担保するため、税務訴訟の多いインドにおいてはメリットの大きい仕組みとして知られています。しかしながら、先日インド企業が照会した仲介貿易にかかるGST(Goods and Service Tax : 物品・サービス税)の課税関係の事前確認申請に対して、2020年3月に公表されたAARからの回答結果が関連法規と矛盾するとしてインド国内で物議を醸しています。

グジャラート州AARの回答結果

グジャラート州AAR(Advance Ruling No. GUJ/GAAR/R/04/2020)の回答によると、インド法人が行う仲介貿易の取引は、州をまたぐ取引と同等とみなされるため、当該取引をGSTの課税対象とするという不可解な主張をしています。仲介貿易とは、国内事業者が国外において購入した商品を、国内に搬入することなく販売する貿易取引を指し、「三国間貿易」とも言われます。今回AARへ事前照会を行ったインド法人の貿易会社も海外の仕入先から商品を購入後、インドに輸入することなく得意先へ直接納品する貿易仲介を行っていました。しかしながら今回の回答結果により、こうした取引はGSTの課税対象としてみなされることとなります。

課税根拠とその影響の範囲

 仲介貿易をGSTの課税対象としたAARの見解は、CGST法及びIGST法(州内取引及び州間取引にかかるGSTの関連法規)に法的根拠を求めています。そもそも大前提として、GSTは物品・サービスの“供給”(Supply : 売買だけでなく物品の交換や倉庫移動も含む)を課税の基準としており、CGST法第7条第1項ないし第3項に基づき、当該取引に対価性が認められることから“供給”に該当するとした上で、IGST法の第7条第5項にある「州内の“供給”に該当しない取引については州間の”供給”取引として扱われる」という規定を参照しています。つまり、三国間での貿易取引は州内の供給に該当せず、かつ、GST免税となるサービスの輸出取引にも該当しないため、したがって分類が不可能であることから、消去法として通常の州をまたぐ取引と見なされてしまったと理解ができ、その結果GSTの課税対象とするとの結論を下しています。AARの回答結果は事前確認を申請した企業に対してのみ法的効力を持つものではあるものの、今後GST当局が課税権行使の際に当該AARの決定事項を参照する可能性もあります。

回答結果とCGST法の矛盾

 しかしながら、このAARの判決については曲解だとする意見も多く、専門家の間で議論が巻き起こっています。CGST法の附則第3条第7項(Section 7 of Schedule III)には、「Supply of goods from a place in the non-taxable territory to another place in the non-taxable territory without such goods entering into India(インドに輸入されることなく非課税地域からその他の非課税地域に供給される取引)」は、物品・サービスの“供給”にはみなされないと明記がされているにもかかわらず、AARがこの条項を参照していないからです。また、GST法第1条1項では、GST法があくまで国内を適用範囲としているため、今回の判決は適法性に欠けるとの意見も出ています。正直、おそらく「非課税であるはず」との一般的な理解があった取引の課税関係に対して、このような不可解な回答結果が正式に出てしまったことについては当該照会を行った当事者たる企業にとっては藪蛇(ヤブヘビ)感が否めず、インドの税務リスクに対する懸念を増幅させかねない由々しき状況とも言えます。いずれにせよ同様の取引に対する課税関係が他のAARや税務訴訟などにおいて検討される際に、今回のグジャラート州AARの決定事項が覆る可能性もありますので、今後の動向に注視する必要があるでしょう。

執筆者紹介:田中啓介 / Keisuke Tanaka

Global Japan AAP Consulting Private Limited

代表取締役社長/米国公認会計士

南インドのチェンナイにてGlobal Japan AAP Consulting Private Limitedを創業、スリランカのコロンボにGlobal Japan Lanka Consulting (Pvt) Ltdを設立し、インドおよびスリランカに進出する日系企業の市場調査や法人設立支援、会計税務、法務、労務、カンパニーセクレタリー等の各種コンプライアンスのアウトソーシング支援やアドバイスを中心として、これまで100社超の日系企業の南アジア進出を支援。2012年からチェンナイに移住。

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代表取締役社長 田中 啓介(米国公認会計士)
事業概要南インドのチェンナイに本社を構える国際会計事務所。 バンガロールおよびハイデラバードにも拠点を持ち、インドに進出する日系企業の市場調査や法人設立支援、会計税務、法務、労務、カンパニーセクレタリー等の各種コンプライアンスのアウトソーシング支援やアドバイスを提供。
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