GAFAに代表される“デジタル・ビジネス”は、世界経済を席巻する一方で、その課税管轄権を容易に超えてしまう取引の特性から、課税上の問題を引き起こしており、課税ルールを巡って国際的に議論が行われています。インド政府もこの流れを受けて課税強化に踏み切っており、2020年財政法(Finance Act, 2020)の施行に伴い、2016年に導入されたEqualisation Levy(以下、”平衡税”という)と呼ばれるデジタル・ビジネスへの課税について、範囲が拡大されました。

従来の平衡税との比較

平衡税が導入された2016年財政法(Finance Act, 2016)においては、課税範囲は限定的で、インドにPE(恒久的施設)を有さない非居住者のうち、インドにおけるオンライン広告収入を稼得する外国企業と規定していました。しかしながら、今回の改正では納税義務者に関する規定に”e-commerce operator”および“e-commerce supply or services”の文言を加筆しており、非居住者のe-コマース事業者およびその取引への課税強化についてはっきりと明示しています。また、以前は源泉徴収課税方式を前提にオンライン広告収入のみに対して6%と限定的であったのに対し、改正後はe-コマース事業者がインドに所在するIPアドレスを通じて得た手数料収入に対しても2%を課税すると規定しており、非居住者である外国法人がインドの税務番号PANを取得した上でインド税務当局に対して海外送金にて四半期ごとに納税が求められる可能性があり、課税範囲だけでなく課税方法についても拡大しています(※ただし、課税年度におけるe-コマース取引総額が2,000万ルピーを超えない場合には免税)。

不明確な課税関係と日系企業が注意すべきポイント

インド税務当局は2020年7月現在ではまだ公式なFAQ(よくある質問)なども公表しておらず、その課税関係には不明確なところが混在していますが、一方で、すでに2020年度から課税されることは決まっているためクロスボーダー取引が多い日系企業/外資系企業は特に留意が必要です。なお、この新しいデジタル・ビジネスへの課税については、ビジネスの取引実態として明確な物理的拠点を特定することが難しいため、ユーザー所在国が十分に課税権を行使できない、と国際的に問題視されてきた背景があり、現時点ではまだその課税関係を明確にしようという途上にあると言えます。特にプラットフォーム型のe-コマースにおいては、自社のプラットフォーム上で大規模なユーザーデータを収集・分析・利用することで新たな付加価値を生み出すことができるという利点が挙げられますが、そのような企業は、無形資産であるユーザーデータを広告等マーケティングに利用し、オンライン上で広告主とユーザーを結びつけることでビジネスを成立させていることから、物理的な取引実態の所在が確認できず課税関係が不明瞭となるといった課税上の問題が生じます。なお、平衡税が課税される可能性のある取引としては以下のようなものが想定されますが、特に日系企業の場合に、親会社がインド子会社管理を名目とする管理サービス報酬や何らかのオンライン上でのサポートをベースとした技術的役務提供報酬などをインド現地法人に対して請求している場合には、課税対象となる可能性があるため注意が必要です。

“平衡税”が課税される可能性のある取引事例

課税取引が発生した場合の必要な手続き

 もし、上述のような免税基準を超える取引が発生すると見込まれる場合には、非居住者たる外国法人がインドの税務番号PANを取得した上で、四半期ごとに以下の納税期限までに平衡税を納税する必要があります。法人税で言うところの予定納税に近い制度となっており、課税期間が終了した時に、結果的に年間のe-コマース取引総額が2,000万ルピーを超えなかった場合には規定上は還付がされることとなります。ただし、弊社の経験上インド国外在住者および外国法人への海外送金による還付手続きについては、手続きが煩雑になり、かつ、相当の時間がかかる可能性があるため、実務的な観点から申し上げると明らかに免税基準を超えることが事前に確定していない限りは、現時点で四半期の段階での平衡税の前払は避けた方がいいのでは、という所感を持っております。

平衡税の四半期納税期限

各四半期末締め納税期限
第1四半期(6月末)7月7日
第2四半期(9月末)10月7日
第3四半期(12月末)1月7日
第4四半期(翌3月末)3月31日

今年度に限り発生する予定の不可解な二重課税

なお、インド所得税法第10条50項(Section 10 (50) of Income Tax Act)の規定によると、平衡税の課税取引についてはその代わりに法人所得税を免税とする旨の規定が発表されていますが、当該規定は2021年4月1日以降に適用されることとなっており、それまでの課税期間については平衡税と法人所得税がともに課税される(いわゆる“二重課税”となる)点には注意が必要です。

インドは2016年に世界に先駆けて平衡税を導入した経緯を鑑みると、こうしたデジタル取引に対して是が非でも課税機会を確保したいという政府の思惑が透けて見えます。膨大な人口規模を有するIT立国のインドにおいては絶好の税源獲得のチャンスであり、積極的な課税強化が予想されるため、今後の動向には引き続き十分に注視していきたいと思います。

執筆者紹介:田中啓介 / Keisuke Tanaka

Global Japan AAP Consulting Private Limited

代表取締役社長/米国公認会計士

南インドのチェンナイにてGlobal Japan AAP Consulting Private Limitedを創業、スリランカのコロンボにGlobal Japan Lanka Consulting (Pvt) Ltdを設立し、インドおよびスリランカに進出する日系企業の市場調査や法人設立支援、会計税務、法務、労務、カンパニーセクレタリー等の各種コンプライアンスのアウトソーシング支援やアドバイスを中心として、これまで100社超の日系企業の南アジア進出を支援。2012年からチェンナイに移住。

【Global Japan Consultingインドおよびスリランカ法人の概要】

会社名
Global Japan AAP Consulting Private Limited(インド法人)
Global Japan Lank Consulting (Pvt) Ltd.(スリランカ法人)
代表Founder & Managing Director
代表取締役社長 田中 啓介(米国公認会計士)
事業概要南インドのチェンナイに本社を構える国際会計事務所。 バンガロールおよびハイデラバードにも拠点を持ち、インドに進出する日系企業の市場調査や法人設立支援、会計税務、法務、労務、カンパニーセクレタリー等の各種コンプライアンスのアウトソーシング支援やアドバイスを提供。
所在地インド/スリランカ(チェンナイ本社)
その他拠点バンガロール、ハイデラバード、コロンボ
URLhttps://g-japan.in/
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