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【インド】パロタのGST税率が民族紛争に発展?食品課税から見えるインド社会実態

インドの間接税GSTとその税率

2017年7月に導入されたインドの統一間接税GST(Goods and Service Tax : 物品・サービス税)はいわゆる日本の消費税に該当するものですが、その税率は現在0%、5%、12%、18%、28%の5種類があり、品目ごとに細かく規定されています。その中でも我々の生活を支える食料品やレストランでの食事などで適用される税率は、品目や状況に応じて異なり、かつ、頻繁な税率変更も重なって複雑さを極めています。ご参考までに2020年3月時点での税率については以下のような取り扱いになっています。

食料品のGST税率の一例

外食やデリバリーなどのGST税率の一例

ちなみに、各品目のGST税率およびHSNコード(インド1975年関税率法(Customs Tariff Act, 1975)に規定される商品分類)は、国際的な商品分類であるHSコードに紐づいて規定されています。このHSコードはあらゆる貿易対象品目を5000種類以上に細分化して規定されているため、各国でさまざまな商品が流通している状況の中、全ての商品をモレなくダブりなく分類することが困難であることは想像に難くありません。さらに、インド国内産業保護の観点や経済政策による影響も受けるため、2017年7月の導入以降、上述の通りGSTの税率適用に関するルールは幾度となく変更が行われており、税率が規定された背景を読み解くことは簡単ではありません。

物議を醸したカルナタカ州AARの回答結果 さて、インドでは課税上の取り扱いに関する不明点を事前に税務当局へ照会できる仕組みがあり、その手続きを司る機関のことをAuthority for Advance Ruling(事前審査機関、以下「AAR」という)と呼びます。前回は仲介貿易へのGST課税に関するAARの回答結果を取り上げましたが、今回はインドの食品加工会社iD Fresh Foods社が製造販売する加熱用のパロタ(Parota :中力粉マイダを原料とするパンの一種)にかかるGST税率に対するAARの回答結果で、多民族国家であるインドならではの、一風変わったケースをご紹介したいと思います。

(前回の記事はこちら)

カルナタカ州AAR(Advance Ruling No. KAR/ADRG/38/2020)の回答によると、同社製品のパロタは開封後にフライパンで温める必要がある点において調製食料品(調理を必要とする加工食品)の分類として見做されるべきであり、18%の税率が適用されるとの見解を主張し、物議を醸しました。これまで同社は、パロタはロティ(Roti : 全粒粉を使った無発酵のパンの一種)等すぐに食べられる小麦製品と同様の分類であるとして5%の税率を適用して販売してきました。チャパティやロティなどと同じようなパン類食品(GST法に規定されるHSNコード1905および2106「Khakhra, plain chapatti or roti」に該当)であるとの理解からそのような取り扱いをしてきたわけですが、上述のとおり「フライパンで温める必要がある(=すぐに食べられるもの(ready to eat foods)ではない)」ことから5%の税率が否認されることとなり、上述のリスト内にある「規定カテゴリーに該当しないケース(Residual entry)」であると見なされ18%の税率が適用されることとなったわけです。

GST税率にかかる過去の税務論争

このような食品にまつわる不明瞭な税率の規定は今に始まったことではなく、実は同じ商品を扱った2018年のケララ州AAR(Advance Ruling No. KER/23/2018 Dt. 12.10.2018)においてもパロタは18%が適用されると主張がされたケースがある一方で、同じく2018年のマハラシュトラ州AAR(NO.GST-ARA-26/2018-19/B-91 Mumbai Dt.20.8.2018)においてはなんと5%を認める回答結果が出ています。また、少し余談にはなりますが20年以上も前にネスレ社が税務当局と係争した「Kit Kat(キットカット)」の物品税率(GST導入前の旧間接税)の事例では、同社商品は”chocolate with a wafer inside(ウエハース入りのチョコレート)”であり税率は20%であるという税務当局の主張に対し、ネスレ社は”wafer with a chocolate coating(チョコレートコーティングをしたウエハース)”であり税率は10%であると主張し、結果的に勝訴したという事実もあり、適用される税率を明確に判断するだけでも一筋縄ではいかず、専門家である我々でさえも法律と実務のギャップに悩まされることは少なくありません。

AAR回答結果が巻き起こした南北民族紛争

なお、今回事前照会を行ったiD Fresh Foods社に対するAARの回答結果は、課税対象の物品が特定の民族や地域の主食であることから、民族差別的であるという批判も浴びています。パロタは、主にインド南部で消費されていて、ケーララ州特有の製法でデニッシュのような渦巻き状の生地を重ねて平らにし、表面をこんがり焼く調理法が特徴的です。一方ロティは、主にインド北部やパキスタンなどの地域で消費されていて、全粒粉からつくる平らな生地に焼き目をつける調理法が特徴です。つまり、このパロタの調理法にある「生地をこんがり焼く工程」に見出した課税根拠は、インド北部と南部という民族・地域間で主食の税率に大きな差を生んでしまう結果となり、民族的差別であるとの論争まで巻き起こしました。今回AARからの回答を受けて、同社はAARに対して判断の変更を求めるべく2020年7月に異議申し立てを行ったものの、残念ながらAARはすでに棄却を表明しており国内での議論はさらにヒートアップしています。Twitter上ではインド全国のパロタ好きが#handsoffporotta(パロタに手を出すな!(?))のハッシュタグを使用して反対運動を行うなど、インド全土を巻き込む大騒ぎとなっています。

参考データ

[su_box title="執筆者紹介:田中啓介 / Keisuke Tanaka" style="default" box_color="#212737" title_color="#FFFFFF" radius="0" class="global_japan auther" id=""]

Global Japan AAP Consulting Private Limited

代表取締役社長/米国公認会計士

南インドのチェンナイにてGlobal Japan AAP Consulting Private Limitedを創業、スリランカのコロンボにGlobal Japan Lanka Consulting (Pvt) Ltdを設立し、インドおよびスリランカに進出する日系企業の市場調査や法人設立支援、会計税務、法務、労務、カンパニーセクレタリー等の各種コンプライアンスのアウトソーシング支援やアドバイスを中心として、これまで100社超の日系企業の南アジア進出を支援。2012年からチェンナイに移住。

【Global Japan Consultingインドおよびスリランカ法人の概要】

会社名
Global Japan AAP Consulting Private Limited(インド法人)
Global Japan Lank Consulting (Pvt) Ltd.(スリランカ法人)
代表Founder & Managing Director
代表取締役社長 田中 啓介(米国公認会計士)
事業概要南インドのチェンナイに本社を構える国際会計事務所。 バンガロールおよびハイデラバードにも拠点を持ち、インドに進出する日系企業の市場調査や法人設立支援、会計税務、法務、労務、カンパニーセクレタリー等の各種コンプライアンスのアウトソーシング支援やアドバイスを提供。
所在地インド/スリランカ(チェンナイ本社)
その他拠点バンガロール、ハイデラバード、コロンボ
URLhttps://g-japan.in/
お問合せhttps://g-japan.in/contact-us/
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